自然体験から得るもの

  保育の中で子ども達がさまざまな自然体験をする保育が北欧を起点としてヨーロッパで広まっています。そのような中、自然の中で遊ぶことで子どもが育っていくのか、という批判がドイツであり、それに答える形で調査が行われました。結果としては町中だけで生活している子どもよりも自然の中だけで生活している子どもの方が、コミュニケーション力が高いという結果がでました。これは極端な例だと考えられますが、東京大学名誉教授の汐見先生が、この結果を次のように解説していました。『理由はおそらく、森で遊んでいると、「あ、そこ危ない」「○○ちゃん、足をもって押して」等のことを、とっさに、的確な言葉で、タイミングよく誰かに伝えなければならないことが多いのですが、それが的確なコミュニケーションの練習になっているからではないか』と言われています。思いを的確な言葉に代え、タイミングを間違えず、明瞭な発声で相手に伝える、ということは、なるほどコミュニケーションそのものです。自然の中で子ども達が遊んだりすることが多いと、それだけでなく、温度が微妙に変わったり、風の音を感じたり、日差しの変化を感じたり等々、五感を活性化させられることが増えます。こうした感覚は人間における自然(生物性)の働きですが、自然の中での遊びや探索などは、子どもの内部の自然を活性化させることにつながっています。もっというと、自然の中での活動は、外の自然と子どもの内の自然との相互交渉を活性化させるのです。内なる自然の活性化は、制度化された文明の中で生きざる現代人の中で、自分の中にあるものを活性化させ、自分の心身が深いところで求めているものに気付きを与えるという大切な効能を持っているのだと思います。」

 汐見先生の解説を簡単に言うと、自然と関わることで、子ども達は好奇心や探究心をもつようになり、それが豊かな感性になっていく、というような感じでしょうか。自然と戯れることで知識を教えられて獲得するのではなく、自らが関わることでなんらかに気付いたり感じたりすることで、知識を体得していくのでしょう。そしてこのようなことを繰り返していくことで、子ども達の心が活性化され、物事に主体的に関われるようにもなっていくのだと思います。自然は時には子ども達に試練を与えることがあるかもしれません。しかしその試練と対峙することで、人とのコミュニケーションや協力する大切さであったり、自分で考えようとする思考力や自分でやりぬこうとする忍耐力などが育っていくのだと思います。

 

【引用・参考】

汐見稔幸(2022)私幼時報 全日本私立幼稚園連合会 全日本私立幼稚園幼児教育研究機構